雇用多様化時代の新制度

新定年制度の発足
 ダイニックの新しい定年制度は1991年(平成3年)1月に発足している。新制度によって定年は55歳から60歳に引きあげられ、5年間延長されることになった。これにともなって55歳以上65歳未満を対象に実施されていた継続雇用制度は廃止となり、60歳以上を対象にした新しい継続雇用制度が定められた。退職金制度も60歳定年にそくした内容に改正された。
 新しい定年制度では、原則として勤務は現職を継続、賃金も55歳標準の100%が保証される。昇給についてはベースアップのみだが、資格手当、その他の手当についてはすべて細則にもとづいて55歳未満と同等のあつかいを受ける。
 新しい継続雇用制度は60歳での定年退職者を一定の要件で受け入れる制度である。60歳で退職しても、引き続き勤労の意思のある者に対しては、契約社員として65歳まで勤務することができるようになった。
 定年は5年延長されたが、新制度の導入によって、中高年社員の雇用問題をはじめ人的資源の活用、活性化など新しい課題に直面することになってゆく。


職群制度の導入

 経済環境の変化とともに雇用の多様化、人材の最適活用、さらには労働価値観の多様化などの問題が浮上するなかで、組織の活性化、人材の育成を図るために、この期は人事制度のうえでも模索が繰り返されている。
 1992年(平成4)に発足した職群制度もそのひとつである。職群を管理職、専門職、専任職に分けて、管理職(課長)につかない同資格者を専門職のワクで吸収するというのである。
 専門職の運用基準は1992年(平成4)9月に明らかにされている。専門職の役割については、「専門知識、経験を十分活かして、特定の分野の研究、企画、立案、設計、開発などの機能を担当し、その分野のレベルをつねに世間水準以上に維持すること」とある。さらに、「社内外で発生した諸問題の解決策の立案、推進、新技術の開発および後進エキスパートの指導・育成」なども含まれる。
 専門分野としてとりあげられた5つの分野は次のとおりである。

研究・開発系 製品の設計・開発・試験・分析
製造系 生産技術、設備の設計、開発、商品化加工技術、生産管理
情報系 特許、情報管理、システム開発、OA)
営業系 販売、販売企画、商品管理、販売管理、物流管理、市場調査
事務系 経営企画、秘書、法務、労務、教育、広報、財務、経理

 専門職位としては「主席専門部長」「専門部長」「専門課長」の3つで、それぞれ参事、参事補、主査の資格にリンクしたかたちになっている。受験資格は部門長の推薦を受けた主査以上の資格をもつ者で、所定の試験によって常務会で認定される。専門職の任期は2年間で、任期の途中で管理職に任命されることもあるが、その場合でも専門職の認定は継続される。
 専門職の役割、さらには分野など、その守備範囲のひろさから、組織収縮時代の中高年対策も視野にいれた制度であった。
 1993年(平成5)には、「専門職群チャレンジ制」を導入、職群制度にも一部修正を加えた。役職定年を定めたのもこの年である。管理職の定年は次のとおりである。事業所長は58歳、グループマネージャー(部長)は56歳、チームマネージャー(課長)は54歳、専任職位は55歳。専門職群には原則として定年は設けていない。
 専門職群は会社の任用が原則だったが、この年から「チャレンジ制」を併用することになった。チャレンジ制とは、社員が専門職にチャレンジして、会社が認定するもので、社員のもつ専門能力の発掘と活用にその狙いがあった。専門職位はシニア・スペシャリスト(参事補以上)とスペシャリスト(主査)の2つで、いずれも公的資格、専門能力、業績などから総合的に判断して任用される。
 受験資格は主査以上で54歳に達していない社員、社業に有益と判断される公的資格の所持者、あるいは専門職レベルに達していると自ら判断した者で、その任用の決定は常務会にゆだねられている。


海外技術指導員制度が誕生

 1990年代になるとグローバル化が進み、海外に進出する企業が急増、国内、海外という枠組みで企業活動がとらえられなくなってきた。ダイニックも1967年(昭和42)の台湾をはじめとして海外の生産拠点づくりはシンガポール、タイ、アメリカ、イギリス、中国・大連とつづき、1993年(平成5)には中国・昆山に12番目の海外拠点を設立した。
 海外のグループ企業へのサポートと中高年の雇用対策から誕生したのが、「海外技術指導員制度」である。
 年齢50歳以上の従業員を対象にして、会社がすぐれた人材を技術分野ごとに認定、技術指導員として登録しておく。海外の関連会社、あるいは技術指導会社から要請があれば、登録者のなかから適任者を派遣するというのが制度のあらましである。
 認定登録された対象者は、派遣者研修会にも出席するなど、つねに海外で活動するための条件を整え、自分の専門分野の技術向上につとめ、派遣要請にいつでも対応できるような心がまえが求められている。
 技術分野は生産技術、商品設計、管理技術、設備などで、派遣期間は原則として2年以内とされている。
 定年延長、中高年社員の増加にともなう人材の有効活用、雇用の活性化を念頭においた新制度である。

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