技術力にかける

DPSからTPMへ
 メーカーであるかぎり、いつの時代も生産の合理化、効率化、コストダウンが大きな課題になるが、ダイニックでは1980年代にはDPS活動を積極的に展開してきた。DPSは「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」造り、ジャスト・イン・タイムに製品を供給しようというシステムである。そのシステムにふさわしく工場の設備もレイアウトまで一新、ライン化を実現した。
 DPSにつづくのが滋賀工場で1991年(平成3)10月から取り組みがはじまったTPM(トータル・プロダクティブ・メンテナンス=全員参加の生産保全)活動である。
 TPMは社団法人日本プラントメンテナンス協会が主唱する全員参加のPM(生産保全)活動である。個別改善や自主保全など8つの柱を中心にして、生産システムの効率化、企業体質の改善を目的にしている。TPMの特色は〈ゼロ目標〉にある。つまり〈故障ゼロ〉〈不良ゼロ〉の達成が最終目標になる。設備のロスやムダを徹底的に排除し、設備効果を極限まで追求することによって、企業の業績向上と生きがいのある職場づくりを実現しようというのである。
 TPM活動の成果をあげた事業所には、日本プラントメンテナンス協会から「PM賞」が授与されることになっている。
 滋賀工場では1991年(平成3)5月、日本プラントメンテナンス協会から2人の講師を招いて「TPM講演会」を開き、関係者60人が受講した。ダイニックではこれを機会に「PM賞」の受賞をめざして、積極的に活動を開始することになり、まず滋賀工場が同年10月に、続いて深谷工場が翌1992年(平成4)5月にキックオフした。
 TPM活動は直接的には工場が中心になって展開する改善活動だが、ダイニックでは全社的活動と位置づけてスタートした。社長の坂部三司は次のように述べている。

 TPM活動は皆さんもご存じのとおり「全社的生産性向上活動」です。製造部門にはがんばってもらうが、工場だけが努力しても成功しない。営業・事務部門の生産性向上活動も重要です。もし、営業・事務部門がそっぽを向いていたらどうなるか。たとえば、営業から的確な市場情報がはいらなかったら、口だけでいくら設備改善、合理化を進めても何もならない。本社部門が「TPMなんて工場のやることだ」と何もやらなかったら、全社の生産性はあがりません。
 そこで、営業・事務部門の皆さんにはまず工場の活動を見るようにしていただきたい。工場へ来れば、必ずTPM活動を見て帰ってほしい。そうすれば、工場の皆さんの苦労がわかるだけでなく、皆さんの職場、仕事の上でも必ず役に立つヒントが得られるはずです。(「おれんじ」166)

 ダイニックの3工場のなかでも生産システムや品質管理についてつねに主導的立場にある滋賀工場では、1991年(平成3)10月29日、平成3年度の「工業標準化実施優良工場近畿局長賞」(JIS局長賞)を受賞、大阪市で開催された「標準化近畿大会」(日本規格協会、近畿通産局主催)で表彰された。同賞は、標準化と品質管理の両面にすぐれた工場に授与されるものだが、壁紙、クロス・芯地などの分野では業界初の受賞であった。滋賀工場では受賞を機会にDPS、TPM活動を推進、品質水準、管理基準のさらなる向上をめざし、「院長賞」「大臣賞」を新しい目標にしてスタートした。


ダイニック技術大学校の開設

 ダイニック技術大学校は、いわゆる企業内カレッジである。科学技術の進歩はめまぐるしく、もはや学校教育では対応できないようになっている。新入社員を企業人として戦力にするためには再教育が必要になる。さらに入社5年、10年、20年とステップアップさせるためには、継続的に教育する必要がある。そういう背景から、1992年(平成4年)6月、ダイニック技術大学校を開設したのである。校長に就任した坂部三次郎は開設の目的について次のように語っている。

 私は常づね〈技術〉と〈技能〉というものについて考えてきたが、偉大な科学者ポアンカレーは次のようにのべている。科学の技術へのアプローチには、〈論理的な追究〉と〈直感をひらめかせる〉2方法があるという。前者は〈技術〉、後者は〈技能〉を指している。技能とは経験的に身についた熟練の技、技術とは科学に裏打ちされたものである。どちらも重要である。とくに機能中心の商品は技術が優先される。ファッションなどハイタッチ指向の場合は技能が先行するが、そこでも科学的な裏づけがなくてはならない。技能中心から科学的技術型への転換……それが、ダイニックのキイ・テクノロジーが抱える課題である。技術大学校のスタートを機に、若い技術者諸君は研鑽に励んでほしい。(「おれんじ」162)

 技術大学校では基礎・原理を中心にして各人が専門技術を磨けるように育成・指導計画を設定している。新入社員は知識の修得、入社5年目までの社員には基礎技術、6〜11年の社員には応用技術、12年以上の管理者には専門技術の習得にポイントをおいている。
 コースは「新入社員育成コース」「基礎科学講座」「基礎技術講座」「技術専門職向講座」の4つ、集合教育のかたちだけではなく、ゼミナール方式も導入し、所定の単位を履修した者には「認定証」をあたえる。
 ダイニック技術大学校の開校式は1992年(平成4)6月19日にアストロパーク天究館で行い、同日と翌日、開校講座を開いた。講座のテーマには「界面化学と高分子」を採りあげ、社内の製品設計・開発分野の主任以上の社員40人が参加した。坂部会長の基調講演の後、昭和電工・本山卓彦博士、第一工業製薬・西谷主任研究員、京都工芸繊維大学・柴山助教授、ダイニック・中村健理事補、土井保史理事補、中村孝一理事が講義を行った。

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