環境調和型の新技術、新事業

環境問題とダイニック
 地球環境問題がにわかにメディアの話題として登場したのは1988年(昭和63)の夏以降である。その年の6月にカナダのトロントで開かれた先進7カ国サミットで地球環境問題が初めて議題としてとりあげられたのである。1週間後に同じトロントで「地球環境問題に関する国際会議」が開かれ、フロンガスの問題、さらには二酸化炭素による地球温暖化によって21世紀には海面が60センチ上昇する……など、衝撃的なレポートが報告されている。
 翌1989年(平成元)7月、パリで開かれたアルシュ・サミットでは、経済宣言の3分の1を地球環境問題が占めるほど、この問題はにわかに世紀のテーマとして関心が高まってきたのである。
 1989年(平成元)といえば東西の冷戦構造が終結した年である。つまり地球環境問題はポスト冷戦後の人類共通の問題として、先進7カ国だけでなく、世界各国がこぞって認めてしまったということになる。
 このような流れを受けて、3年後の1992年(平成4)6月、ブラジルのリオデジャネイロで国連環境開発会議(UNCED=地球サミット)が開催され、183カ国の代表が、国の利害を超えて地球の環境をまもることを誓い合ったのである。
 地球環境問題が人類に問いかけているのは、大量生産、大量廃棄型のモノづくりの見直しであり、究極的には「真の豊かさとは何か」ということの問いかけにほかならなかった。このように地球環境問題の浮上が、経済政策の選択肢をも大幅に変えてゆくことになる。かくしてモノづくりを担う製造会社は、真の意味で国民生活の質的向上につながるような消費を喚起する生産活動が求められるようになってゆく。
 ダイニックは環境問題については、早くから積極的に対応策を講じている。1989年(平成元)7月にダイニックファクトリーサービスを設立、工場内の廃棄物処理、リサイクル活動を展開している。1991年(平成3)3月には、産業廃棄物処理と事業化プロジェクトを発足させ、塩ビ廃棄物の再利用、焼却処理技術の確立に着手するなど、廃棄物処理事業の具体的な検討を開始している。
 1992年(平成4年)6月には定款を一部変更して、「産業廃棄物の処理、管理、およびその再生品の販売」を事業目的に加えた。同年10月には環境対策推進委員会を設置し、「環境対策商品設計委員会」と「環境対策リサイクル委員会」を設けた。1993年(平成5)3月にはニックフレートが産廃収集運搬業の認可を受け、同年11月には深谷工場が産業廃棄物処分業(熱還元による中間処理業)の認可を受けている。
 グループをあげて環境対策への取り組みを強化するなかで、1994年(平成6)1月、社長の「環境に関する基本方針」が明示され、環境管理、環境監査などのシステムの構築に向かうことになった。

 
環境に関する基本方針


 すべての企業活動を、人間尊重並びに環境と調和させる。
 省資源、再生資源利用、省エネルギーに徹し、次世代に向け豊かな社会と地球環境保全の実現に貢献する。

環境行動指針

1、製品の開発、設計、製造、販売、物流、及び廃棄に関する一連の活動において、環境に関するすべての法規を満たし、且つ、各段階において環境に関する技術向上に努め、環境保全に貢献できる企業活動を積極的に行う。
2、資源保護などを含めて、人類共有の資源を守り、廃棄物の減少に努め、又再生資源化を積極的に展開する。
3、自然との調和を図りながら、地域社会と協調し、環境保全を積極的に推進する。
4、社員への環境に対する教育を徹底し、環境への意識向上を図る。

 ダイニックが21世紀に向かうテーマとして「環境とアメニティ(快適さ)」を掲げたのは、このころからであった。環境調和型の企業活動をめざすこと、そこから省資源や省エネルギー、生産工程から商品化の後まで含めたリサイクル化という発想が生まれてくる。開発から生産、商品の流通、再生利用にいたるまで……、一貫して快適な環境というものを実現する企業活動を積極的に展開してゆくこと、それを社長方針ではっきりと明示したのである。
「環境に関する基本方針」にもとづいて、1994年(平成6)1月29日、アストロパーク天究館研修室で第1回「環境大賞発表会」が開催されている。全社で25件の候補のなかから5件の発表があり、審査の結果、ダイニック滋賀工場・ビニール製造チームの藤野広行が第1回「環境大賞」を受けた。


カーペットのリサイクルシステム

 ダイニックが最初に取り組んだマテリアルリサイクル(原料の再利用)は、ニードルパンチカーペットであった。展示会などの会場で使用されたカーペットはほとんどが投棄されてしまう。資源の有効利用という観点からリサイクルシステムの研究に取り組んできた。埼玉工場では1991年(平成3)年に大型乾溜焼却炉を設置、ポリプロピレンによるカーペットの廃棄屑を焼却、熱エネルギー回収が始まった。
 1993年(平成5)11月には産業廃棄物の熱還元(サーマルリサイクル)による中間処理業の認可(埼玉県知事)を受け、先に産業廃棄物の収集・運搬業務の認可を得ているニックフレートと共同で、ニードルパンチカーペットのリサイクルに取り組み、1994年(平成6)1月から、本格的に事業展開を開始した。
 グループのニックフレートによって回収されたカーペットのうち、ポリウレタンやラテックスを含むカーペットは、埼玉工場のガス加熱分解炉で焼却、発生した蒸気を工場の熱源に再利用する。100%ポリプロピレン製のニードルパンチカーペットは、反毛機でフェルト製品にもどしたり、溶融処理してPPベレット(粒状)化し、原料へと再生してゆく。つまり原綿再生利用のリサイクルシステムとして完成をみたのである。
 埼玉工場は約2億円で焼却炉(ガス加熱分解炉)を導入、熱源として再利用するとともに、リサイクル対応の不織布カーペット「TEX-01」を開発、1994年(平成6)1月、住宅関連グループから発売した。
 TEX-01はポリプロピレン繊維に低熱融着ポリプロピレン繊維を混合、特殊熱処理を施したディスプレイカーペット材料で、これまで繊維を固定するために不織布裏面に塗布していたラテックスを使っていない。100%ポリプロピレン繊維で構成されているため、反毛機にかけて綿状にもどしたり、各種フェルトに再生することができるなど、リイクル処理を大幅に簡素化できるカーペットとして登場したのであ
る。


壁紙のリサイクルシステム

 マテリアルリサイクルについては、深谷工場の塩ビ断裁屑、原綿屑のリサイクル、東京工場の紙屑、洗浄廃液など、多種多様なかたちで試みていたが、1994年(平成6)10月、滋賀工場で塩ビ壁紙のリサイクルシステムが完成している。
 壁紙製品のうち約90%はビニール壁紙である。ビニール壁紙は塩化ビニールを使用するために焼却時には人体に有害なガスが発生する。したがって壁紙の処分については一般的に専用の焼却設備をもつ処理場にゆだねるか、あるいは埋め立て処理しているのが現状である。
 ビニール壁紙は製造工程で塩化ビニール粉末、残塗料、壁紙の不良品・屑、可塑剤ミストなど廃棄物が発生する。もともとこれらは産業廃棄物として処分されていたが、処理費用がかかり、環境問題の発生も避けられない。ダイニックでは全社的に環境問題への取り組みを強化するなかで、これらの再資源化あるいはエネルギーの回収を図るため、再利用の研究に取り組んできた。その結果、原料として再生して、他の用途に活用するリサイクルシステムを完成させたのである。
 壁紙は紙ベースに塩化ビニール塗料をコーティングするのだが、調合のときに残塗料が発生、コーティングのときもローラー内に塗料が残る。これらをゲル化・成型して出荷、遮音シートや一般シートの原料として供給している。
 壁紙に立体的な模様をつける型出し工程では、発泡剤を混入して熱を加える。加熱のときに発生する可塑剤のミストは空気中に雲散させていたが、集煙装置によって回収、塩ビシート用可塑剤、床材の再ペレット用の可塑剤として再利用できるようにした。
 特殊な壁紙の塗料を調合するときに発生する超微粉末の樹脂も従来は空中に放出していたが、大気汚染防止と再資源化をねらいにした集塵機で回収、自動車用フロアシート、遮音シートの原材料として供給している。
 ビニール壁紙の規格外製品も従来は廃棄していたが、粉砕機によって紙粉と塩化ビニール樹脂粉に分離、塩化ビニールの樹脂粉末は壁紙や床材の原料としてユーザーに提供している。粉砕した塩化ビニールの粉粒は、溶融、成型して、たとえば植木鉢などに再利用することができる。
 ダイニックでは1994年(平成6年)10月に塩ビ屑を再生利用した植木鉢を発売した。塩ビは弾力性があり、落としても壊れない。彫刻刀でかんたんに彫れるなどの特性から工作などのクラフト用途が考えられ、版画用の板など学校教材用途の商品開発を進めている。


抗菌加工製品の開発

 松下電器産業の抗菌材「アメニトップ」を使用した抗菌加工製品群も、「環境とアメニティ」というキイワードから誕生した製品のひとつである。「アメニトップ」は松下電器産業生活システム研究センターが開発した銀系抗菌材で、毒性がなく、安定性、持続性にすぐれ、対ウイルス、対MRSAに対してすぐれた抗菌性をもっている。松下電産は冷蔵庫や空調機器などの抗菌処理をねらいに開発、樹脂に擦りこんで成型、主として家電製品に採用していた。すぐれた抗菌材をさらに広く用途展開を図りたいという同社の意向をうけて、商品の共同開発にあたることになった。
 1993年(平成5年)8月、ダイニックは松下電産との間で、同社の開発した抗菌材「アメニトップ」について技術提携契約を結び、コーティング技術を活かした用途開発に着手した。
 まったくの未開拓の分野だったが、1年におよぶ共同研究の結果、ダイニックならではの加工技術による商品が誕生した。ファイル、バインダー、手帳などの文具製品、壁紙、カーペット、建材シートなどのインテリア製品、車イス張り、スリッパ、シーツ、フィルターなどのメディカル関連商品をはじめ数多
くの抗菌加工商品を開発、積極的に販売してゆくことになった。なかでも空調機器の菌の繁殖を抑制したり、エアクリーン化に効果的な抗菌フィルターなどは大きな期待がかかっている。

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