エンドユーザー向けシステム商品」

ミスター・メイシマンの開発
 ダイニックの製品群は、いずれも中間素材としての性格をもつものがほとんどだったが、この期になると、複合技術をベースにした最終商品の登場してきた。そのひとつに「ミスター・メイシマン」がある。ミスター・メイシマンはインクリボンの技術を応用、熱転写式プリンタと専用パソコンを組み合わせて自社開発した「名刺・はがき印刷システム」の総称である。ダイニックにとっては最初のエンドユース向けシステム商品というわけである。
 企業における社員用の名刺は、ふつう総務部門が印刷会社など外部に作成を依頼する。その名刺を企業内で必要なときに必要な枚数をスピーディーに印刷できるというのが、ダイニックが開発した名刺印刷システムなのである。
 ミスター・メイシマンの開発は1990年ごろからソフト化開発部門で始まっている。「テレホンカードに名入れ」する技術を模索するうちに、熱転写リボンを使うプリントシステムに行きついた。感熱プリンターに熱転写リボンを装、試行錯誤でプリンタの開発が始まったのである。名刺との接点はALINDA名刺である。フィルム素材ALINDAによる名刺は、オフセット印刷によらねばならないが、それでは版代があまりにも高くつく。そこでプリンタの開発が求められるようになったのである。
 ソフト化開発部では電気回路、プログラム、機械の改造まで、ほとんど手探り状態で開発に取り組み、1991年(平成3年)2月ごろ、「名刺・プリントシステム」としてプログラムが完成、東京本社で社内公開している。第1号機はソフトの仕様も社内の担当者が製作、熱転写プリンタも自社開発し、文字どおり手づくりで完成させた。
 ミスター・メイシマンは同年3月末にプレス発表を行い、テレビ、新聞、雑誌などメディアにも採りあげられた。インクリボン熱転写方式なので鮮明で高品質の印字を実現できる。コピー機感覚のかんたんな操作で印刷できる。入力・編集・データ管理もワープロ感覚で自由自在である。通信機能を利用して遠隔地でもプリンターだけで出力できる……など、ミスター・メイシマンならではの機能が注目され、予想以上の反響を呼んだ。


名刺・プリントシステムの全国展開

 名刺・プリントシステム「ミスター・メイシマン」は1991年(平成3)7月に発売した。当初の製品名は「MP400」である。1993年(平成5)には葉書も印刷できるタイプにバージョン・アップ、1995年(平成7)には改良タイプの「MP600」を開発し、解像度も400dpiから600dpiへと性能が向上した。
 ダイニックでは1991年(平成3)8月、本格的な市場参入をめざして「ミスター・メイシマン」プロジェクトチームを発足させている。チームは総勢16人で、開発、マーケティング、メンテナンスのすべてを担当することになった。
 ミスター・メイシマンの販売は当初、システム販売準備グループが担当、代理店に依存しないで、印章機材商社を通じて独自の販売ルートを開拓しながら、販路の拡大をめざしていたが、1994年(平成6年)からは株式会社ムサシと提携して、全国販売の体制を整えた。ムサシはダイニックとは長年にわたり取引関係のある代理店の1社で、もともとは印刷・情報・紙器用紙の商社である。最近ではバンキングマシンや選挙管理システムなどに用いるユニークな印刷・OA機器の販売で知られていた。株式会社ムサシとの提携によって、ムサシのもつ販売ネットに加え、新しく全国規模の販売網、サービス網を構築、ミスター・メイシマンの本格的な拡販に乗りだすことになったのである。


熱転写リボンでマーケット拡大

 OA事業部では、1990年(平成2)ごろから熱転写フィルムリボンに注目、製造・販売にも力を注いできたが、1991年(平成3)3月、コニカ株式会社から熱転写製造設備を購入、あわせて同社販売マーケットも引き取ることで合意に達した。
 熱転写フィルムリボンの市場規模は1991年(平成3)当時、約160億円といわれ、60%がワープロ、残りの40%がファックス、バーコード、ラベルなどの業務用途であった。需要は増大傾向で、当時すでにして300億円市場になるだろうという見通しであった。家庭用ファックスは熱転写が主流になると想定され、バーコードやラベル市場もFA、OA化とともに成長が見込まれる分野であった。
 熱転写リボン製造機は1991年(平成3)7月、東京工場に新設、月産1億円の拡大生産体制を整えた。
 ダイニックの熱転写リボンは、アイロンをかけてもはがれることがない。洗濯ができるうえに薬品に溶けることもない。インクの定着性の良さから金属やフィルムにも使用できるという特性をもっている。用途には無限のひろがりが期待できる。
 主用途はワープロを中心とする個人消費だが、バーコードによる工程管理、機械メンテナンスでは熱転写リボンの機能が威力を発揮する。ダイニックではすでに勝馬投票券など発券機用やラベル印刷用リボンで実績をあげていた。世界的にもラベルプリンタが急速な伸びを示している状況から、OA事業部ではボーダレスの販売展開を念頭において、熱転写リボン市場へ本格的に参入を決めたのである。

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