多彩にひろがる複合商品」

環境にやさしいクロス素材
 1990年(平成3)以降、モノづくりのうえでも環境問題がテーマとして浮上するなかで、〈環境にやさしい〉製品群が登場してきている。出版・文具関連では、たとえばパッケージ用クロスのいくつかにその具体例が見受けられる。
 エルサイサーサティーニは再生紙を使用したリサイクル型の素材である。コーティング樹脂に離解可能な水溶性樹脂を使うことでリサイクルできるクロス素材として、1992年(平成4)に開発、リサイクルできるパッケージ素材として注目されている。
「エルサイサー」とは英語のRECYCLE(リサイクル)を逆読みしたもので、再生紙を利用したリサイクル型の素材であることをネーミングで表現したのである。
 1993年(平成5)に発売したブックカバー用クロス「ニックカバー」も「エルサイサー」シリーズのひとつである。書籍カバーに要求される各種物性強度を満たすため、特別に硬質のベース紙を使用している。このほか環境調和型のクロスとしては、再生紙ベースの教科書用クロス「レーヌボードAR」がある。再生紙を使用しながらも、従来のタイプと同じ強度をもつクロスとして、1994年(平成6)に開発した。さらにUV加工による教科書クロスも登場した。印刷特性を高めるUV加工によるクロスはPP加工の製品に代わって、新しい教科書の表紙素材として中心をなしてゆくことになる。
 パネロン・カラーシート1200(1992年発売)は、不織布によるパッケージ素材である。 木材を主成分としてレーヨンが原材料であるため、燃えるゴミとして廃棄処分できる。食品添加物などの規格基準(食品衛生法厚生省告示第370号)にも適合、安全で衛生的な素材で、食品や和洋酒の包装材として販売を展開している。


量販型の紙クロス製品が充実

 出版・文具・紙製品関連では、1990年(平成2)から1993年(平成5)にかけて量販型の紙クロスを相次いで開発した。書籍装幀の軽装化に対応する商品グループとして、この期に集中して製品化している。
 ジフ、ブラ、モス、ミスティ、ヴァル、綾、メタG、メタS、クランド、タムノスなど「量販紙クロス」という分野をつくった製品群は、いずれも従来のような厚塗りコーティングはほどこさず、グラビア印刷とエンボス表現技術で完成、低コスト化を実現した。
 紙の素材を活かしたクロスだが、それぞれ特色のある製品である。たとえば「ブラ」は半透明で強度がある。「ジフ」はナチュラル素材のジーンズ調。「モス」は含浸紙の強くしなやかな味がある。「綾」はパステルカラーの色調とテキスチャーで表現したユニークな外観が売り物である。
 豪華本用の布クロスとしては「新・日本の色」「セビクロス」(1993年)がある。
「新・日本の色」は1981年(昭和56)に発売した「日本の色」のモデルチェンジである。旧タイプは日本の伝統美を象徴する60色の構成が売り物だったが、新タイプではソフトなパステルカラーを含む豊富な構成となった。
 量販型紙クロス製品群にくらべて、こちらは装幀織物タッチのシリーズで、社史や美術書、豪華本など重厚な装幀に適したクロスである。豪華本という用途から販売方式にも新しいシステムを導入した。これまでは21メートル巻などのロール単位で販売していたが、「新・日本の色」については、ニックフレートと提携して、カット販売の方式をもって顧客サービスにつとめることになった。
「セビクロス」は、繊細な生地に糸目をおさえ、気品とクラシカルなムードを再現した味わい深いクロスである。滋賀工場の壁紙と通帳用クロスの技術による複合商品で、耐折強度、箔押し適性にすぐれている。最初に使用されたのが小学館の「世界美術大全集」である。
 変わったところでは「紙刃クロス」。これは1993年(平成5)に開発した含浸による「紙の超硬化仕上げ」技術によって生れた製品である。料理などで使用するフィルムラップやアルミホイールを切断するとき、ギザギザのある金属刃に押しつけて切るのが普通である。しかし環境問題や安全性からみると、機能さえ十分なら紙製の刃のほうが安全で、かんたんに焼却処理もできる。そういう発想から開発した環境にやさしいクロスである。
 このほか灯心用クロス、型紙クロス、紙管クロスなど、含浸による紙の改質技術と表面塗装技術によって、新しいクロス製品が生まれつつある。


多用途印刷素材「シータス」

 1990年(平成2)に発売された「シータス(CETUS)」は、ニックセブンの技術を応用して開発した新しい印刷素材である。
 ニックセブンは活版やオフセット印刷を前提にした素材だが、「シータス・シリーズ」は熱転写、レーザー、インクジェットなど、新しい印刷方式に対応できる印刷素材として登場した。ケアラベル用途に着目した場合、たとえば5〜10万という単位では従来の印刷方式でもコスト的に問題はない。ところが衣料のように多品種少量生産になると、製版して印刷する従来の方式よりも、熱転写方式のほうがはるかにコストダウンできる。そのうえ「要るときに、要るだけ」つくれる。「シータス」は、そういう時代背景から誕生したのである。
 印刷素材「シータス・シリーズ」の販売とともに、ダイニックでは「シータス」の印刷にふさわしい熱転写リボン「トランザム・EX40」を発売した。同製品は、洗濯、ドライクリーニングに耐える高性能の熱転写リボンとして開発したものである。OA事業部とラベル事業部の共同開発という意味でも画期的な開発製品である。
 シータスは織物、不織布をベースにしているために用途はひろい。ラベルだけでなくPOP広告やポスター、地図などの印刷素材としても、すぐれた機能を発揮する。たとえば「たれ幕」や「ゼッケン」など。「たれ幕」は手書きがほとんどだったが、シータスならワープロと連動させれば、あらゆる書体で瞬時に印字できる。「地図」は合成紙が主流だが、シータスなら耐熱性があるうえに、布だからあつかいやすい。きわめて汎用性のある印刷素材だということができる。
 1991年(平成3)に不織布事業部が開発したプレアデスも、オフセット印刷ができるユニークな印刷素材である。POP、ショッピングバッグ、封筒、ブックカバーなど、その用途はひろい。


塩ビ床材に新タイプ

 ダイニックはニードルパンチカーペットについて35%のシェアをもつトップメーカーだが、この期は「TFX-01」のように環境調和型の製品開発を進めるとともに、フローリングの人気上昇という時代背景にも着目して、塩ビ床材の製品群の充実化を図った。
 1993年(平成5)から翌1994年(平成6)にかけて、「ビルバート・メガリス」「プラティコ」「ストーンエイジ」「ウッドエイジ」という3つの塩ビ床材を発売した。
「ビルバート・メガリス」は石のイメージを追求した新感覚のデザインが特徴、「プラティコ」は自然を素材にして生まれたベーシックな床材である。安心感のある落ち着いた石の風合い、温かい天然の木質感を表現したタイプなど、塩ビ床材のスタンダード・アイテムである。
「ストーンエイジ」は石のイメージを再現した塩ビタイルで、原石のイメージを表現した7柄・26色がある。
「ウッドエイジ」は木質の良さを表現したフローリング素材である。施工上の観点から新しくスクウェア(四角)タイプを加えた。


高機能に向かう接着芯地

 接着芯地のモノづくりは時代のファッションに大きく左右されるが、1990年代になると、超薄手素材、新合繊、新世代ウールなどが相次いで登場、ステーフレックスも新タイプの開発が活発になっていった。
 1989年(平成元)には難接着素材向けのディスパージョンタイプ(DF)シリーズが完成した。1990年(平成2)には、同じディスパージョンタイプだが、細かいドット(ファインドット)のシリーズを開発、レディース用薄手素材にも対応できるようになった。1991年(平成3)には、伸縮性のある表素材に対応できるベースクロスを開発して、ディスパージョン加工、PSシリーズを開発した。さらにドレスやブラウス用芯地として特殊なマイクロファイバーを使用したSGシリーズなどもある。
 1990年(平成2)ごろからは、新合繊の柔らかくて伸びのある表素材がにわかに増加してくる。接着芯地としてはドットが2重層をなすダブルドットの開発を進め、ダブルドットのステーフレックス「PDシリーズ」を1992年(平成4)に開発した。いずれも新合繊、新世代ウールを視野におさめた新しい接着芯地である。どんな動きのある素材にもフィット、高度の接着力とソフトな仕上がりが実現できる。
 ダブルドット加工とベースクロスの開発によって、1992年(平成4)以降は、さまざまな機能をもつ個性ある製品づくりが活発になった。
 紡毛タイプの冬物素材には、たとえばドットの幅を大きくした紡毛素材向けSSシリーズが1993年(平成5)に登場、翌1994年(平成6)にはダブルドットの紡績糸タイプPDCシリーズを開発している。さらに、トンネル式やガーメント方式のドライクリーニング仕上げ法に対応したDSシリーズを開発した。


不織布の多様化

 不織布は工業用素材を中心にして、複合技術による多様な製品開発に向かった。ニードルパンチによるフィルター、自動車用天井材のほか、後加工技術(含浸、ラミネート、プリント、染色)を活かした製品も、この期には数多く登場している。とくに「家まわり」「車まわり」をターゲットにして、集中的に製品開発を進めた。
 自動車関係ではエンジンフィルター用素材がある。たとえば1990年(平成3)に誕生した「AC330」は、高級大型乗用車用のエンジンフィルターである。空気清浄効率が高く、ダスト捕集量が大きいのが特徴である。ホンダのスポーツタイプ・NSX、レジェント、プレリュード、アコードなどのエンジンフィルターに搭載された。
 フィルターではほかに1993年(平成5)に開発した「ML」フィルターがある。異種素材との複合による高効率フィルター材で、ビルの空調用フィルターや自動車用エアークリーナーなど多様な用途に使われている。
 天井材の「フェネル」シリーズ(1993年)は、成型性にすぐれ、軽さ、印刷適性など自動車業界で高く評価された。マツダのボンゴ、ホンダのアコード、トヨタのルシーダ、エミーナ、富士重工のインプレッサなどに採用されている。
 このほか不織布の吸音性や吸水性などの機能を活かした商品開発を進め、「ハウスラップ」「すべり止めテープ」「吸水テープ」「緩衝材」などが、この期に登場している。
 1993年(平成5)に発売した結露「吸水テープ」は、ニードルパンチ技術に含浸、プリント、粘着加工、スリッターなど後加工技術を活かして開発した製品の代表である。同製品はフマキラー(株)ほか2社に採用され、ホームセンターやスーパーで販売されている。
 パネロン・スキップ(1991年)は、木質フローリング(床材)の緩衝材である。歩行感、載荷性にすぐれた素材として床材の大手メーカーに採用されている。

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