合繊加工糸へ向かう染工部門

特殊技術に活路
 日本クロスの染工部門は、昭和30年代後半になって大きな転換期を迎えることになる。合繊時代の到来がそのきっかけであった。合成繊維の登場と繊維消費の増大は染色工業そのものの体質を変えてゆくのである。
 合繊工業はいわば装置産業である。合繊メーカーは、いずれも大規模な設備によって大量生産をめざした。生産形態そのものが天然繊維とはまるでちがっていた。したがって合繊の染色加工には、それに対応できる設備が必要となる。技術的な裏づけに加えて、設備能力が求められるようになったのである。
 設備の拡大には、大規模な設備投資が必要であったが、リスクも大きかった。流行の変遷によって設備の陳腐化するテンポが速く、さらに季節変動などの要因もあって、過剰投資になるおそれもあった。
 日本クロスの染工部門は、アセテート染色において先駆的役割を果たしてきたが、あくまで特殊加工が中心で、技術力を売り物にしてきた。昭和30年代後半から合繊染色にも乗りだしたが、これも特殊技術を生かして高級化路線を歩んできた。その意味で天然繊維染色の時代の路線を踏襲していたといえる。アセテート染色の後半期に台頭した同業他社の歩みと比較するときわめて好対照である。専業の染色加工工場として台頭した同業他社は、労働条件をうまく利用して、価格・サービスの両面で顧客をつかみ、急成長をとげてきた。合繊が登場するとすぐに量産体制を確立、大手合繊メーカーの系列加工工場となり、染色加工業者としての基礎固めを完了していたからである。
 日本クロスの染工部は下請加工工場ではなく、あくまでメーカー指向に徹するという方針を貫き、技術を売り物にすることにこだわった。そのためには、アセテートの長所を生かした新しい加工技術、ポスト・アセテートを見すえた化合繊の加工技術の開発と、その体制づくりが急務となった。
 このうした状況を背景に、1963年(昭和38)10月から始めた設備増強には、総工費2億円を投じた。連続糊抜精練機、ヒートセッター高圧染色機、コーティング機、ラミネーターの導入は、テトロン、ナイロンなどの合繊染色と付加価値の高い加工を狙いとした設備強化であった。一連の設備増強によって、加工能力は月産130万メートルから180万メートルに拡大した。内訳はテトロン40万メートル、アセテート115万メートル、ナイロン15万メートル、レーヨン10万メートルであった。


加工糸染色を選択

 1965年(昭和40)ごろから繊維消費は、合繊を中心に拡大の一途をたどる。1966年(昭和41)を見ると、1960年(昭和35)にくらべて大きな構造変化が生じている。合繊織物の伸びは4.5倍、アセテートは1.6倍となり、一方、化繊や絹、綿織物は大幅に減退している。
 アセテート織物を中心にしてきた日本クロスの染工部は、合繊の台頭によって大きな転機に直面した。
それまでレインコートの約80%はアセテート織物だったが、合繊加工糸織物が新しいコート素材として人気が高まっていた。
 加工糸は、フィラメント糸に物理的な方法でクリンプを形成、ストレッチ性を付与したものである。合繊加工糸(異形断面糸、シンジケートヤーン、中空糸、ストレッチ)による100%織物、交織、混紡織物が新素材として登場、コート、スーツ、スラックス地、裏地として衣料のあらゆる分野に浸透していった。とくにストレッチ織物は、長繊維でありながら短繊維織物の性質をもち、軽くてバルキー性に富み、伸縮性や光沢にもすぐれるところから、第3の繊維と呼ばれた。
 染工部は合繊に対応するために設備を更新・増設していったが、加工糸織物ブームの到来とともに、新しく設備体制を再検討しなければならなくなった。
 加工糸が登場するまでの染色加工はフィラメントが中心で、その加工方法はテンションをかけるのが特徴であった。ところが加工糸の場合は、テンションをかけないで、逆に縮めて加工しなければならなかった。加工糸専用の染色機、振り落とし装置のあるテンター、ドライヤーを設置して、改めてシステム・アップを図らなければならなかった。当初は既設のウィンスで加工したが、ロープじわなどの問題が発生した。
 1967年(昭和42)6月にリクライサー(糊付けされている加工糸のクリンプを、熱湯によって元にもどす装置)が稼動を始めるとともに、ウィンスも更新して、セッター乾燥機、べーキングなどを新設し、ひとまずは加工糸の染色加工体制を整えた。
 加工糸の専用染色機は1968年(昭和43)に導入した。サーキュラー1号機を8月中旬、2号機を9月中旬に設置し、月間20万メートルの加工体制を整えた。1968年(昭和43)には、高圧ビーム染色機2台と付帯設備、バッチャー1台を設置、月間40〜50万メートルの体制を確立した。

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