複合技術で個性ある新製品

新しいフィルム素材「ALINDA」
 「ALINDA」は、ダイニック東京工場で開発したFFC技術による新しいフィルム素材である。 FFCとは、ファイン・フィルム・コーティング(Fine Film Coating)の略称で、精密なフィルム・コーティング技術を意味している。もっと具体的にいえば、PET(ポリエチレン・テレフタレート)を中心にしたプラスチック・フィルム基材に精密コーティングして、表面を改質する技術体系である。この表面改質技術には、創業以来のコーティング技術、薄膜・不織布形成技術、塗料の分散配合技術などの固有技術と、印刷クロスやインクリボンなどの記録材づくりのノウハウが集約されている。FFC技術によって、フィルムに記録特性、光学的特性、電気的特性、機械的特性を付与できるようになり、電子工業、情報記録、印刷、電飾、包装紙器、住宅関連などの市場に新規に参入することができるようになったのである。
 ALINDAは1986年(昭和61)12月に発表、翌1987年(昭和62)1月から本格生産を開始している。第1次の新製品はオフセット印刷用フィルムをはじめとする6品種であった。
 オフセット印刷用フィルム……ALINDAの製品群のなかで最も注目された品種である。プラスチック・フィルムへの印刷は、グラビア印刷、スクリーン印刷などが中心で、普通のオフセット印刷ではむずかしいとされていた。したがってカレンダーやポスターなどの精緻な印刷には特殊なオフセット印刷方式であるUV印刷がもちいられていた。それに対して、普通一般のプロセスインキとオフセット印刷機で印刷できるのがALINDAのオフセット印刷用フィルムの最大の特徴であった。
 カード用フィルム……プリペイドカードや会員カード専用のフィルムである。カード用としての適度の厚みをもちながら、オフセット印刷ができる。さらに各種プリンタでの印字も可能で、磁気テープ貼り適性、磁気箔のホットスタンプ適性など、カードに必要な適性をすべて備えている。
 ラベル用フィルム……表面に特殊コーティングすることで、用途に応じた記録特性を発揮するのが特徴である。なかでもオフセット印刷と熱転写印字がともにできるタイプはPOSシステム対応ラベルとして最高の機能を発揮する。「透明」「白ベース」「蒸着」「透明熱転写」の4タイプがある。
 ホワイトボード用フィルム……電子黒板や伝言板に使用される表面の白いフィルムである。一般にはPETフィルムとフッ素フィルムの貼り合わせタイプが使用されているが、ALINDAのこのタイプは精密コーティングにより、筆記性、消去性にすぐれる特徴をもっている。
 カラーフィルム……独自の精密コーティングによって誕生した高品質のカラーフィルムである。プラスチックの着色は、それまでは染色、グラビア印刷、練り込みなどによっていたが、いずれもカラーが限定されたり、大量のロットが必要とされるなどのネックがあった。ALINDAのカラーフィルムは、多色印刷ができるうえに小ロット需要にも対応できるのが特徴である。
 OHP用フィルム……ドット、熱転写、インクジェットなど各種プリンタで、カラー情報を直接印刷できるOHP用フィルムである。映写効果の高い透明性、鮮明な印字定着性、均一な表面強度、画面複写が可能なこと、滞電防止加工を施してあることなどが特色となっている。
 ALINDAは発売以来関係業界から注目されてきたが、1987年(昭和62)後半から1988年(昭和63)前半にかけて第2シリーズの新製品、防曇フィルム、ハードコートフィルム、オフセット印刷用OFP-P60、カード用フィルムCDW、電飾用OFHの5タイプを発表した。
 防曇フィルム……水蒸気や吐息などによる曇りを防ぐフィルムで、ゴーグル、ヘルメットのシールド、電子レンジの窓、農業ハウス、各種ショーケースなどが主な用途である。
 ハードコートフィルム……耐擦傷性を強化したフィルム素材で、密着性、耐薬品性などの機能を付加したタイプである。主な用途はパソコンや各種電化製品に使用されるメゾプレンスイッチ、タッチパネル、銘板、車輛用計測器板などである。
 オフセット印刷用OFP-P60……OPP素材へのオフセット印刷を可能にした新素材である。このフィルムの登場により、オフセット印刷でも、OPPのカレンダー印刷ができるようになった。
 カード用フィルムCDW……プリペイドカードの多様化に対応するために開発した新素材で、プリペイドカードや回数券、駐車券など、用途に応じてさまざまなタイプがある。


多様化する「コンピュータ・リボン」

 1980年代にはコンピュータ・リボンの開発を精力的に進め、通帳用リボン「DPシリーズ」、汎用プリンタ用リボン「DPK-24E」などを相次いで開発した。インクリボンの製品開発の第2ステップは、1979年(昭和54)から始まった。第2次金融オンライン化と汎用プリンタの登場がインクリボンの新製品開発を推進したのであった。郵政省が全国の郵便局を通信回線でつなぐことになり、民間金融機関である銀行も同じ路線を歩むものと予測された。そこで通帳用クロスとインクリボンの部門を一本化して、新しい製品の開発に取り組み、「SPシリーズ」を改良して、「DPシリーズ」を開発した。この「DPシリーズ」は、郵政省、各銀行に次つぎに採用され、たちまちヒット商品となった。
 汎用プリンタにもこのころから専門メーカーが登場してくる。インクリボン市場は、パソコン、ワープロなどの端末プリンタが中心となった。
 DPK―24Eは、富士通のパソコン、ワープロの主力端末プリンタ用のカセットリボンとして1983年(昭和58)に開発した。詰め替え式のサブカセットを搭載したのが同製品の特徴であった。このころからインクリボンのほとんどは、カセット化されることになった。プリンタ機種の多様化とともに、インクリボンの製品形態は百種類を超え、生産にはアセンブリー技術が求められるようになった。
 インクリボンの製造部門は、プリンタメーカーと連携をとりながら、ベース素材の設計、インクブレンド、カセット成型技術、アセンブリー技術、シミュレーション技術を駆使して、新製品の開発に取り組み、コンピュータ用リボン製品群のほか、熱転写リボン(6色マルチカラーリボン)、マルチタイプリボンなどを相次いで開発した。


機能・プラス・ファッション――クロス

 1980年代になると個性の多様化、ファッション性の追求という時代の流れが素材面にも及んで、ブッククロスも転機を迎えることになった。単なる機能だけでなく、ファッション性という要素が製品に強く求められるようになったのである。
 「日本の色」は、滋賀工場で開発した装幀織物クロスである。新しい染布タイプのクロスであるが、顔料を使用した無公害、省エネ製品である。とくにカラー展開の豊富さが「日本の色」の大きな特徴である。時代感覚にマッチした伝統色60を選び、変化に富んだ色調で編成している。用途は豪華本、単行本、全集、社史・年史、学術書のほか、製函、タトウ、レコードジャケット、アルバム、バインダーなどである。1981年(昭和56)に発売したが、その後モデルチェンジし、現在は製品名を「新日本の色」としている。
 東京工場では、「シャインボード」「シャインカバー」(1979年)、「シルビーヌ」(1981年)、「ベルアート」「マスターカーフ」「ホットメルトクロス」(1981年)、「マノンカーフ」(1982年)、「スカーフ マチュール」(1984年)などの紙クロス製品を開発していた。
 「シャインボード」「シャインカバー」は、裁ち切り表紙用の紙クロスである。PP貼り、ニス引きなどの後加工がいらないのが特徴で、教科書装幀、ペーパーバックスなどに使用されている。
 「シルビーヌ」は現代感覚にマッチした紙クロスである。ソフトで淡い色調とレーザー調、和紙調のエンボスが特徴で、色と柄のコンビネーションで多様な品種をそろえている。これまでの装幀、文具・紙工品のイメージアップをめざす高付加価値クロスで、上製本用の薄口から、裁ち切り用の厚口までグレードも豊富である。
 「スカーフ マチュール」は、装幀家菊池信義氏のデザインによって誕生した、含浸タイプの高級紙クロスである。オフセット多色刷り、活版、箔押しと3拍子そろった加工機能と、紙でありながら皮革調のしなやかさと強度をもつ。なかでも重厚な落ち着きのあるヨーロッパ調のカラーが、同製品の特徴となっている。
 ベルアート、マスターカーフ、ホットメルトクロスは文具・紙製品用、マノンカーフは手帳用の皮革タイプの高級紙クロスである。


パッケージの新素材「ラップランド」

 1986年(昭和61)に登場した「ラップランド」は、パッケージ用の新素材群である。クロス製品もこのころからファッション素材としての用途が開けてきた。
 「ラップランド」は、パッケージに狙いを絞って開発した新感覚の素材群の総称である。同シリーズの誕生により、クロス製品に書籍装幀、文具・紙工品のほか〈パッケージ〉という分野が加わった。
 「ラップランド」は3つの製品シリーズで出発したが、いずれも画期的な新製品といえるものではない。しかしダイニックの多彩な技術の複合によって生みだされた新しい感覚の素材群である。
 たとえば「ハイフレクション」は、ハイグレード感覚の新素材という狙いで開発したものである。アルミ箔をクロスでサンドイッチしたもので、布目から銀がのぞき、糸を織り込んだような効果をもっている。
 「RB」は、かんたんにいえば紙に特殊樹脂をラミネートしたゴム感覚の紙である。紙と樹脂というまったく異質の素材を結合させたハイブリッド素材である。
 「うるしび」は紙に漆を塗ってみたいというデザイナーの発想から開発が始まった。このほか再生紙にアルミを手すきですきこんだ「ぎんが」、紙にアルミを蒸着させた光る紙「グロリアミラー」、不織布にフィルムをラミネートした「サーフェイス」など一連のパッケージ素材は、ユニークなアイディアと〈塗る〉〈染める〉〈貼り合わせる〉というダイニックのキイ・テクノロジーを活用して開発したものである。


土木用途に新天地「ターポリン」

 ターポリンは、あらゆる分野で形をかえて多目的に使用される膜構造素材である。土木用シート、水産用シート、野積みシートから始まって、養漁槽、送風管、トラック用幌、電車の連結機、さらに食品、飼料、化学薬品などの輸送コンテナー、軒出しテント、レジャーテントと、広範囲に使用されている。とくにこの時代は単に素材面だけからアプローチするだけでなく、ひろくシステムを見つめて素材開発を進めた。
 1979年(昭和54)に発売したクリーンターポは、強度をアップしたナイロン基布とEVA樹脂とのコンビネーションによる無毒性ターポリンであった。軽量で施工性、耐寒性にもすぐれ、養漁槽、プール、食品関係などに幅ひろい適応性をもっている。クリーンターポをさらに発展させたものに、1980年(昭和55)に開発したスーパークリーンターポがある。EVA樹脂とポリエステル基布との組み合わせによる同製品もやはり、水槽用をはじめ各種産業の素材として使用されている。


公共スペースのフロアシステム「不織布床材」

 インテリア部門の売上高は順調に伸び、1984年(昭和59)4月期には全社売上げの4分の1に相当する約80億円に達していた。インテリア用途の売上高のうち50%強をカーペットが占め、カーペットのなかでも約60%がニードルパンチカーペットであった。
 インテリア部門の中心商品ともいうべきニードルパンチカーペットは、「NCフォーム」「ニューコロナ」「ファーニス」などの商品群で構成され、毎年約10%は確実に伸びつづけていた。それはデザインの多様化と1983年(昭和58)前後から始まるオフィスや公共施設向けのカーペット需要開拓によるものであった。
 オフィス用ニードルパンチカーペットの販売は、1982年(昭和57)7月に発売した「NCカーペットXL」に始まるが、同製品は対象用途をオフィス、ホテル、劇場、公共スペースに絞って開発したものである。
 NCカーペットXLを核にしたオフィス・システムは、〈機能性〉〈経済性〉というニードルパンチのもつ本来の特性から出発している。同システムの特徴をあげれば〈施工性の容易さ〉と〈メンテナンスの容易さ〉である。オフィス用途のカーペットは七、8年という長期にわたって使用される。床の外観を保つにはメンテナンスが不可欠である。ニードルパンチは従来のオフィス床材の中心であった塩ビタイルにくらべて、イニシャルコストは高くつくものの、メンテナンス料金は格段に低くすみ、したがってトータルコストでみると、NCカーペットXLによるシステムのほうが有利であった。
 NCカーペットXLによるオフィス・システムの展開は、1983年(昭和58)から本格的に展開されたが、さらに機能性を追求した新製品としてタイルカーペット、デザイン性をセールスポイントにしたプリントタイプなどが生まれている。
 オフィスをはじめ一連の需要の開拓によりニードルパンチの生産設備はフル稼動状態となり、深谷工場は設備の増強に向かうのである。


複合技術で産業資材、車輛資材――不織布

 ダイニックの不織布は、長年にわたって市場別に組織した営業部門が、個別マーケティングを展開してきたが、主として衣料関係部門(芯地パネロン)とインテリア関係部門(カーペット)がこれにあたってきた。不織布の総合的な販売戦略の構築を目的として1985年(昭和60)8月に不織布プロジェクトが発足し、およそ1年を要して、不織布の可能性について答申した。答申の趣旨は、「ニードル不織布を中心にした拡大」「ダイニックの固有技術(コーティング、染色、ラミネート、エンボス、含浸、プリント)をプラスした不織布の高付加価値化」「二次製品による拡大」の3点に要約することができる。
 1986年(昭和61)8月、不織布事業部が新組織として誕生したが、それは不織布プロジェクトチームがまとめた答申にもとづいていた。おりから自動車の天井材として不織布(薄手のニードルパンチ)が注目されるようになり、車輛用途をねらったニードルパンチ製品の開発がこのころから活発になっていった。
 細デニール・ニーパンによる不織布天井材を新しく開発して同市場に参入、日産、マツダなどの車種に採用されている。エンボス、プリントという固有技術をフルに活かしたのがダイニック製品の最大の特徴で、成型性、吸音効果にすぐれた素材として業界から評価された。このほか自動車用では、トランクルームの成型フェルトや、不織布ベースに塩ビフィルムをラミネートした「車輛カバー」「工具袋」などの新製品を相次いで開発した。
 衣料芯地から出発した不織布はインテリア・車輛用途が中心になったが、事業部として再出発してからは、生活資材・産業資材への用途展開も活発になった。それらは、いずれもダイニックの基礎技術を付加して開発した製品であった。1987年(昭和62)から登場した各種シート材は、その代表例といえる。
 たとえば、「ファインシート」には、接着芯地ステーフレックスの製造技術が活かされている。スパンボンド不織布をベースにドット加工を施した製品で、玄関マットやクッションのすべり止め素材として用いられている。
 「透湿性シート」や「結露防止シート―ハウスラップ」は、ラミネート技術をドッキングさせて開発したシート材である。
 印刷用不織布はダイニックの得意な分野で、クロス造りの技術を活用して、新しい製品開発を進めた。たとえばスパンボンド不織布にコーティングして表面を改質し、あらゆるオフセット印刷機やインクに対応できる製品シリーズなどを開発した。
 ニードルパンチ製品では各種フィルター製品がある。自動車用のエンジン・フィルターは3層構造の複合製品である。このほか空調、弱電関係のフィルターの開発も進めた。最近になって注目を集めている「遮音床材」も、不織布と他の素材とをドッキングさせた複合素材である。
 不織布の新しいテーマは、産業資材、メディカル分野に的を絞り、2次製品を含めた開発に移行しつつある。

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