発想の転換で新製品を開発」

生分解プラスチックを用いた土木用シート
 新製品の開発については、自社だけでなく松下電器産業や富士通、キャノン、エプソンなどとの共同研究でも大きな成果をあげてきた。「生分解シート」もそのひとつである。
 土木用シートにはポリ塩化ビニールが使用されてきたが、回収作業が必要となるばかりでなく、焼却時に有害ガスが発生するなど環境面でも問題があッた。そこで環境にやさしい使い捨てタイプのシートの研究に取り組み、伊藤忠商事、竹中工務店、竹中土木、萩原工業(岡山県倉敷市)の5社と共同で、1995年(平成7)6月に生分解樹脂を用いた生分解シートを開発、本格的に商業化に乗りだした。
 このシートの特徴は特殊な添加剤をプラスチックに混ぜることで生分解を誘導加速して、およそ1年でシートを二酸化炭素と水に分解してしまうところにある。環境保護の観点から生分解プラスチックの利用が進んでいるが、土木用シートとして開発したのは世界で初めてであった。添加剤はエコマスターと呼ばれ、澱粉、有機鉄、植物オイルなどを成分にしている。ゴミ袋、建設現場の養生シート、テープなどに配台され、一部で実用化されていたが、大規模土木工事に使用できるように化学品検査協会、茨城大学の協力を得ながら五社が共同で開発を進め、1994年(平成6)6月から北海道の石狩川、天海川で試験を繰り返して商業化に目途をつけたのである。
 生分解シートは、エコマスターを10-20%添加したネット(ポリエチレン)、フィルム、コットン不織布の3層構造(厚さ約0.2ミリ)からなっている。ネットが強度機能、フィルムが止水機能、不織布が環境促進機能をもち、それぞれの役割によって分解速度を変えている。活発に活動する微生物がエコマスターによってポリエチレンを溶かし、さらに有機鉄や酸化オイルが連続的な酸化反応を引き起こして、ポリエチレンをボロボロにする。さらにそれを微生物が攻撃、最後に二酸化炭素と水にしてしまうというのが分解のプロセスである。分解速度を約1年にしたのは、浚渫工事など土木工事を配慮したにめであるが、添加剤の量によって、分解速度を変えることができる。
 同シートは北海道開発局で採用され、北海道全域の河川の浚渫工事に使用された。また海外でもマレーシアの熱帯雨林で、地表の土砂流失防止に使用されることになった。
 不織布による土木資材分野への応用製品開発の一環として、産業廃棄物の最終処分場向けの保護マットの開発に乗りだし、アモコ社製の「ダイテックス」の輸入販売を手がけるとともに、1996年(平成8)、リサイクル綿を使用したNCマットを開発した。1995年(平成7)からはNCマットの耐水性強化タイプ、耐候性強化タイプの開発を開始する一方、大林組や太洋興業など7社と共同で、廃棄物処分場汚水の漏水対策に取り組み、その検知システム「T&OHシステム(二重シート・真空管理システム)」を開発した。


パソコン対応の名刺・ハガキの印刷システム

 ダイニックと株式会社ムサシは1995年(平成7)4月、簡易名刺印刷システム「MF600」を発売、簡易で高性能の印刷システムとして、文具業界、印章業界、一般企業にも好意的に迎えられてきた。
 同システムはNECのパソコン「PC-9800」シリーズにしか接続できなかったが、印刷業界ではアップルコンピュータの「Macintosh」が普及していることから、「MP600」と「Mac」とを接続するソフト「Macintoshインタフェイスセット」を開発、1997年(平成9)1月から発売した。
 名刺やハガキの印刷は、印刷業者が活版かオフセットで印刷していたが、「MP600」の登場以来、パソコンとプリンタで構成するオンデマンド電子印刷が増加してゆく傾向にあった。そこでムサシと共同で、「Windows」と「Macintosh」の両方に対応する、コンパクトな一般向けと印刷業者向けの2機種を開発、1997年(平成9)8月から発売した。
「MP-600EX」は、印章店、プリントショップ、カメラ店、ミニラボ店などの店頭サービス業者、一般企業などを対象として、156万円(税別)で売り出した。
 印刷業者業者向けの「MP-1200Pro」は高精度、高機能印刷システムである。1200dpiという高解像度で名刺、ハガキが作成できる。さらに外字作成や地図作製などの機能を搭載してプロ仕様の構成になっている。価格は186万円(税別)であった。
 両機種ともに名刺やハガキを読み込むスキャナーに文字だけでなく、レイアウトも同時に認識する機能を加え、版下の作成時間も従来の3分の1に短縮することに成功した。スキャナーで読みとるとパソコンの画面上に、元の名刺やハガキとまったく同じ文字やレイアウトが表示される。いちどレイアウトを決めさえすれば、あとは部署や役職、住所、書体、文字の大きさもかんたんに変更できる。印刷時間は名刺の場合、百枚で3分、ハガキは百枚8分と作業効率も大幅に改善した。両機種合わせて年間1,000台の販売を見込んでいた。
 パソコンの普及とともに一般企業では名刺の内製化が検討されるようになった。そこでコスト削減をねらう企業の名刺の内製化を促進するために、1998年(平成10)に企業向けの名刺作成ソフト「MP企業名刺作成ソフト」を開発、7月から販売を開始した。従業員のデータを用意し、自社の名刺仕様に応じて初期設定すれば、パソコン画面上の操作だけで一枚からかんたんに名刺が作成できる。このソフトはだれでも手軽に使えるよう操作性の面でも工夫してある。初期設定を済ませた後は、社員番号を入力して自分のデータを呼び出して確認し、必要な枚数を押すと、3分間に100枚の名刺ができあがる。
 ソフトの価格は20万円で、専用プリンターは108万円から。試算によると、従業員300人の企業の場合、外注する場合に比べ、年間約140万円のコスト削減が可能であった。


新時代の装幀材……「タス」「ファーレン」

 近年ブックロスは「量販紙クロス」の開発に取り組み、第1弾として1990年(平成2)にミスティ、ヴァル、ジフ、ブラなどを発売したが、1996年(平成8)には第2弾として「タス」シリーズを開発して市場に投入した。タスシリーズは、はっきりと競合品のファンシーペーパを意識して開発した紙クロスである。
 第1弾として開発したミスティをはじめとする製品は、グラビア印刷とエンボス加工で表面加工しているが、裏は白地のままである。これに対して、ファンシーペーパーは抄紙の工程で色染めするため表裏とも着色されている。そこで製紙メーカーと共同で、ベースになる紙を表裏とも着色するように設計しておいて、後加工で外観をデザイン化するシステムで開発したにが新しい紙クロス「タス」シリーズである。
「タス」シリーズは、パステルカラー8色と、バーク(樹皮)、グレーン(光の粒)、スエード(なめし革)、サージ(布地)の4タイプのエンボス柄で品種を構成している。
 東京工場を深谷へ集約移転した時に紙クロスの生産部門も移設して再編成したが、「タス」シリーズは新しく起ち上がった埼玉工場が最初に開発した製品であった。
 1997年(平成9)には「タス」のベース紙に古紙パルプを混入、いわゆる再生紙による「タスU」シリーズを開発した。再生紙の利用によって、むしろ紙の自然で素朴な味わいがあるタイプとして完成した。カラーはナチュラルなトーンで統一、エンボス柄もあらかじめ印刷効果を考えて、リーマ(やすり)、レヨン(光線)、プラパ(千鳥)などシンプルなものをそろえた。環境にやさしい紙クロス「タスU」シリーズは、印刷適性にもすぐれ、書籍装幀、文具、パッケージ、ラッピング、一般印刷など幅広く使用されている。
 環境にやさしい製品といえば、1998年(平成10)に埼玉工場開発したビニールクロス「ファーレン」もそのひとつである。塩化ビニールのクロス製品「ビニールペーパー」は、辞書や手帳などの装幀に使用され、出版文具関連事業部の主力商品のひとつであった。ところが塩化ビニールはダイオキシンや環境ホルモンの発生源なるなど環境汚染の原因にあげられたため、10年ほど前から脱塩ビ、非塩ビの研究開発に取り組み、製品開発に取り組んできた。
 1992年(平成4)に非塩化ビニールの樹脂の代替材として、オレフィン系の樹脂を使用した製品開発の検討を開始し、1994年(平成6)「オレフィンペーパークロス」を開発した。紙の上に着色したオレフィン樹脂を圧し出しラミネートし、エンボス加工したもので、主な用途は手帳カバーやファイルの表紙であった。そして1998年(平成10)には、発泡タイプのオレフィン樹脂を使用して発泡レザーシート「ファーレン」を開発したのである。
「ファーレン」は、焼却の際にダイオキシンが発生するおそれのある塩化ビニールを使用していないだけでなく、環境ホルモンの疑いのある可塑剤も使用していない。塩ビ製品とくらべて軽量で耐寒性にもすぐれている。環境調和型の新しいクロス素材である。


多様化に向かう……インクリボン

「環境」はモノづくりのキーワードのひとつだが、1999年(平成11)から情報関連事業部でスタートした「トナーカトリッジ・リサイクルシステム」も、その具体的な一例である。使用済みのレーザープリンタのトナーカトリッジを回収し、再生、再資源化するリサイクル事業をで、カトリッジの再利用、再資源化でコストダウンと廃棄物の大幅削減をめざしている。
 インクリボンはこの期に多様化に向かっている。1996年(平成8)に樹脂型インクリボンのメタリックカラーリボンを開発したが、金、銀のほか青味タイプ、ピンク調タイプなど6種類があった。
 ドラム缶ラベル用インクリボンも1996年(平成8)に開発した。ドラム缶そのものに文字を書き込むと再利用するときに用途が限定されてしまう。そこで再利用しやすいように印字したラベルで表示するケースが多くなってきた。ドラム缶は屋外で使用されることから耐候性が必要で、インクリボンにも同様の性能が求められた。ダイニックが開発した「ドラム缶用ラベルリボン」は洗浄、加熱、水、油、薬品による汚損など過酷な条件に耐えられるように設計してある。耐候性にすぐれ、水に強く、バーコード印刷でも美しくプリントできるのが特徴である。
 銘板用インクリボンは1998年(平成10)に完成した。機械の銘板や注意書きなどに使われるフォームラベルの印刷には、耐擦過性、耐熱性、耐アルコール性などが必要になる。ダイニックの「銘板用高耐性熱転写リボン」は、これまでむずかしいとされてきた複数の有機溶剤に対応できる、業界初の耐有機溶剤性の熱転写リボンである。


快適空間の実現にために……オレフィン壁紙ほか

 脱塩ビ、非塩ビ製品の開発は全社的なテーマで、商品技術研究所の重点テーマのひとつであった。塩ビ製品のなかで量的に最も多いのは壁紙である。脱塩ビ壁紙の研究は商品技術研究所の発足と同時に始まり、塩ビの代替にオレフィン樹脂を使用することで技術的に解決、1998年秋に新しいビニール壁紙「ポリオレフィン壁紙」の開発に成功した。
 オレフィン壁紙はカレンダー加工によってトッピングを行い、塩ビ壁紙と同じようにグラビア印刷、発泡エンボスをほどこして仕上げる。可塑剤など揮発性物質をいっさい使わず、柄付けのインクも水系のインクを使用しているが、それでいて塩ビ製品と同じ仕上がりを実現した。
 オレフィン樹脂を使っているため、焼却処分が可能である。燃焼ガス分析の結果を見ても、有毒ガスの発生もほとんどなく、塩素を含まないことからダイオキシンが発生する心配もない。そのほか可塑剤を使っていないため、汚れがつきにくいなどの特徴をもっている。
 環境調和型の製品としてはこのほか、「ホルムアルデヒド吸着壁紙」や「タピカ・カーテン」などがある。
 1997年(平成9)に製品化された「ホルムアルデヒド吸着壁紙」は、シックハウス病を防止する壁紙である。たとえば新築のマンションに入居したとき、わけもなく頭痛が起こることがある。原因は家具や壁紙の接着剤として使用されているホルムアルデヒドであるが、壁紙でこのホルムアルデヒドを吸着してしまおうというわけである。
 ダイニックでは使用ずみのペットボトルを大量に回収して、汚れや異物を取りのぞき、再生樹脂化して、成型品やカーペット、衣料芯地(ステーフレックス「エコニック」、衿芯ウェルデックス「EKCシリーズ」)などへの商品展開を図っているが、1999年(平成11)に発表した「タピカ・カーテン」も、そういう系列に含まれる製品である。ペットボトルをポリマーとして再生利用し、マテリアルリサイクルの方法で製造した繊維を使用したカーテンである。
 このほか住宅関連の製品では抗菌加工でリニューアルした新商品をいくつか開発している。たとえば1996年(平成8)に発売した「アマニクリーンシート」は、院内感染の原因になるMRSAなど細菌やウィルスなどの抗菌に有効である。やはり同年に開発した「抗菌アコーデオンカーテン」も大腸菌などの輛繁殖を抑制する抗菌効果を長時間持続する働きがある。いずれも快適な住空間づくりに役立つ素材である。


車輛内装材とフィルターの新しい製品群

 不織布では自動車用内装材と各種フィルターに新しい製品がいくつか生まれている。
 車輛用途の素材として天井材を中心にトランクマット、ドアトリム、サンバイザーなどを多くの自動車メーカーに供給している。海外展開は現地メーカーへの技術供与というかたちをとっている。天井材は台湾メーカーに、エンジン用フィルターは米国の企業に技術供与を行ってきたが、1997年(平成9)には、タイのテキスタイルプレステージ・パブリック社に自動車内装材の技術を輸出して、同国に進出しているトヨタ、ホンダなどのメーカーへ製品供給を開始した。
 ダイニックの不織布の天井材は軽くて成型性がよいこと、エンボス・プリントという独自の技術で加工していることが特徴だが、1995年(平成7)に開発した「フェネルSXO」もそのひとつである。表面が円滑な織物調の外観が同製品の特徴で、ホンダのワンボックス車「オデッセイ」など新しい車種で採用された。
 天井材やマットだけでなく、座席シート用素材の開発にも取り組んだ。1996六年(平成8)に開発した「自動車座席用不織布」は、ステッチボンドの不織布を使用したもので、軽くて強度もあり、成型性、耐久性、デザイン性にもすぐれている。モケットに代わる新素材として登場した。
 変わったところでは1995年(平成7)に開発した「パイクフェルト」がある。ニードルパンチによる製品のひとつだが、これは航空機の座席シートに使われる耐熱フェルトである。シートの内側に装填され、炎上防止の役割を果たす。
 車輛内装材とならんで不織布によるフィルター製品の開発も活発である。1997年(平成9)には内部交換型の「空調用フィルター」を発売した。超音波を使った複合タイプで薄く帯電性、吸塵力にすぐれている。
 1998年(平成10)に開発したビル空調用フィルターユニットは、オフィスビルなどに使われる空調用フィルターをユニットにした製品である。抗菌、防カビにすぐれた効果のある不織布フィルターをボックス一体型にしたものである。ユニットだから空調機にそのままセットするだけですみ、取り付けも交換もきわめてかんたんになった。


新感覚のファンシー商品群

 商品関連事業部はダイニックの数ある事業部のなかでも特異な存在である。素材の販売ではなく、2次製品、末端商品、ソフト化商品を事業部自体で企画して製造、販売までを担当している。もともと自社の素材を使った末端製品を展開するためにスタートして、仕入れ・外注商品まで幅広い商品分野をカバーしてきた。最近では企画提案の機能を強化して、OEM中心のモノづくりを幅広く行っている。
 とくに最近は「環境にやさしい製品」「リサイクル」をコンセプトにしたファンシー、ステーショナリーの展開に力を注いでいる。ファイル、バインダー、ノート、ポーチ、ポシェット、ゴルフバッグ、ダイアリー、書籍カバーなど多彩な商品を企画、製作して、さまざまなブランドメーカーに納入している。
「環境対応」「高齢化」をコンセプトにした商品づくりにも取り組み、最近では抗菌加工(アメニトップ)商品の展開を積極的に進めている。たとえば幼稚園のバッグから、病院で使用されるカルテなどのファイルまで、抗菌という機能に着目した商品を独自に企画、開発を進めている。

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