生産技術のレベルアップをめざす」

滋賀・埼玉の両工場に技術センターを設置
 1996年(平成8)といえば東京工場が深谷へ集約移転して埼玉工場が誕生した年だが、この年に埼玉と滋賀の両工場に技術センターが誕生している。滋賀工場に技術センターを建設する計画は、1995年(平成7)の前半に決まっていた。当初、埼玉工場には独立した技術棟をつくる計画がなく、技術部門は新しく建設された工場棟の一部におかれることになっていたが、工場建設が始まってまもなくの9月、埼玉工場にも技術・開発の拠点である技術センターを新しく建設することに決まったのである。その背景には海外シフトを念頭においた生産体制の再編成の問題がある。社長の坂部三司は、その問題にふれて次のように書いている。

 メーカとしての将来を考えるとき、生産拠点の海外シフトは避けれないテーマである。だが、人件費だけに目を向けて、何もかもアジア地区に持ってゆくという姿勢はとらない。ひろく世界を視野におさめて、個々の製品の実態にもとづき、どこでモノ造りをすればいいかを決めてゆく、もし米国の工場が適しているというなら、米国の工場で生産するというように、柔軟な発想で対応してゆく。(「おれんじ」bP75)

 いわゆる世界分業化構想が明らかにされている。海外へのシフトが進んだとき、国内の工場は何を生産するのか。そのように考えるとき、国内での技術・開発がにわかに重要性をおびてきたのである。
 実際の建設は埼玉技術センターが先行した。新工場棟と同時進行で建設されることになり、1995年(平成7)10月16日に起工式が行われ、翌1996年(平成8)6月9日に竣工している。滋賀技術センターは1996年(平成8)2月29日に起工、同年12月6日にオープニング・セレモニーを行った。
 両技術センターとも居住性を大幅に改善し、明るいイメージの施設として完成した。何よりも技術スタッフが仕事がしやすいように、「環境・スペース」を重視して設計され、実験室、事務室、会議室ともゆったりした造りになっている。室と室の間仕切りもガラスを多用し、施設全体が明るいイメージになった。見通しもよくなり、他の室の内部もよくみえるから、おのずと技術者同士のコミニュケーションもスムーズに行われるだろうという期待感もあった。
 とくに埼玉工場は旧東京工場と旧深谷工場の技術担当者が一堂に会する場になる。それは旧東京工場のコーティング、含浸、FFC、旧深谷工場の不織布、ニードルパンチ、ラミネートなど多彩な技術が一同に会することを意味していた。各人が自分の専門にこもることなく、異なものとの出会いを大切にすること、つまり技術の複合化が技術センター設立の狙いであった。


壁紙などの設備増強

 滋賀工場ではこの期に接着芯地、壁紙などを中心に設備の更新・増強が行われた。
 接着芯地は1994年(平成6)以降、機能商品に着目して設備の増強に向かった。同年11月、ダブルドットの接着芯地製造機「SC-8号機」と風合い柔軟機「SM-1」を導入、ダブルドットの紡績糸タイプ(PDCシリーズ)、DCシリーズを開発した。後者はクリーニング業界で主流になりつつあるトンネルフィッシャー洗濯に対応する、接着力の強度をアップした製品であった。さらに1996年(平成8)には風合いをセールスポイントにしたダブルドット複合糸タイプ芯(NSシリーズ)を開発した。
 壁紙の設備増強は1996・97年(平成8・9)に実施した。1996年(平成8)2月には「VG-1機」を改造して、大幅にスピードアップを実現するとともに、オンライン包装機を併設した。改造によってノンストップで柄替えもできるようになり、VG-1は壁紙製造機のなかでも屈指の高性能の発泡エンボス機となった。翌1997年(平成9)11月には壁紙用印刷機「VG-3号機」を増設した。同設備は環境対応をねらいにして導入したもので、水性グラビアインキによる新しい印刷機である。
 クロス製造課では1996年(平成8)8月、CK-1号機を設置した。同機は加湿システムで、リバースロール・コーティングによって水を塗工するもので、水管理のレベルを大幅に改善して、通帳用クロス、教科書クロスの品質向上に寄与した。
 新しい分野では1998年(平成10)1月、環境関連製造課にEA-1号機を新設した。活性炭繊維の製造機で、フェノール繊維を炭化、賦活化させる装置である。


オレフィンフィルムの製造を開始

 塩ビ製品であるビニールクロスは埼玉工場の主力製造のひとつであったが、環境問題による非塩ビ製品の需要の増大から、脱塩ビ樹脂の検討、新規加工技術の開発を進めてきた。埼玉工場では数年前からオレフィン系製品の開発に取り組み、同工場内の試作ラインでサンプルワークを行い、1998年(平成10)初めに好評を得たことから、本格的な設備導入を決定した。
 オレフィンフィルムの専用設備「NT-1号機」は、1998年(平成10)11月に総工費四億円をかけて導入した。月産80万メートルの生産能力をもつ「NT-1号機」は、最新の3層フィルム用Tダイ押出し設備である。ポリプロピレンを基材として、傷つきにくい表層と接着層の3層構造のクロス製品を生産し、エンボス加工による高機能製品にも対応できる最新設備である。
 埼玉工場では同設備を既存の塩ビクロス用設備5系列に隣接するかたちで配置、1999年(平成11)3月まで試運転をつづけ、4月に量産体制を確立した。専用設備の本格稼動により、ビニールクロス、バインダーケースやファイルなどの出版文具のほか、シート類など工業用途の製品の大量生産が可能になった。
 前期につづいてパンチラインの設備増強も行ったが、細デニール製品と車輛用途の多様化がねらいであった。
 1996年(平成8)3月に導入した「PF-1号機」は、細デニールの車輛天井材の専用機だが、同時に導入した新鋭樹脂加工機「WD-4号機」と組み合わせることにより、空調フィルター用の「白い繊維」の製造技術を確立した。1998年(平成10)には、床吸音材の加工機「PA-3号機」、新しいラバーフォーム加工機「WD-4号機」を新設、高機能化と採算性の向上を図った。

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