業界ナンバーワン工場をめざす」

滋賀・埼玉両工場とTPM活動
 TPMとはTotal Productive Maintenance の略で、社団法人日本メンテナンス協会が主唱する全員参加のPM(生産保全活動)である。TPMは、〈故障ゼロ〉〈不良ゼロ〉の達成を最終目標とする。個別改善、自主保全、品質保全、計画保全、初期保全、事務の効率化、安全環境、教育訓練、活性化策の8本柱について、それぞれ効率化、改善の成果が問われるのである。
 活動内容はステップごとに日本メンテナンス協会によって評価され、第1ステップが「優秀賞」、第2ステップが「継続賞」、第3ステップが「特別賞」、最終ステップが「ワールド賞」となっている。
 滋賀工場は1991年(平成3)10月にキックオフしたが、最初の2年間はほとんど成果があがらなかった。滋賀工場は大型設備が多く、初期清掃や発生源対策などに時間とマンパワーを要したからである。TPMのサークル活動が根づいた3年目ぐらいから、個別改善などに効果が現れはじめ、4年目の1994年(平成6)から、ようやくTPM活動の本質が全員に理解されるようになった。
 同年6月に「PM診断」を受けて、取り組み姿勢や個々の活動について軌道修正し、1995年(平成7)7月21日に「TPM優秀賞本審査」にのぞんだ。
 審査は午前9時の概況説明から始まった。TPMの方針と展開状況について工場長が説明、個別改善をはじめとする活動の8本柱については、各担当者が、狙い、目標、活動内容、成果を説明した。現場審査は午前と午後に分けて行われ、各部門の活動推進状況、個別改善を中心とする18テーマについて発表と質疑応答が行われた。
 当日の講評で、「全員参加のもと基本に忠実であること」「個別改善・自主保全についてレベルが高く、効果も大きい」などと、各審査員から高い評価を受けた。
 1995年(平成7)度の「PM賞」の発表は9月28日に行われ、ダイニック滋賀工場は「TPM優秀賞」を受賞、11月16日、東京プリンスホテルで開かれた「TPM世界大会」で表彰を受けた。
「ロス・ゼロ工場」に向かって第1ステップをクリアした滋賀工場は、つづいて1998年(平成10)6月17日に「継続賞」の本審査を受審、同年9月24日に受賞が決定した。次の目標は2001年(平成13)の「特別賞」受賞である。パート3の活動はすでに1998年(平成100)11月から始まっている。
 埼玉工場がTPM活動を導入したのは1996年(平成8)4月である。4月といえば「埼玉工場」が組織のうえで発足したばかりだった。第5工場の建物は完成していたが、東京工場の移転はまだ終わっていなかった。そういう意味でTPM活動は、いわば旧深谷工場、旧東京工場という歴史の異なる両工場が物的にも人的にもひとつになるための有効なイベントでもあった。
 埼玉工場が竣工した同年11月には「PM診断」、1997年(平成9)2月には「特別指導」を受けるなど着実にステップをクリア、同年8月3日に「TPM優秀賞」の本審査にのぞんだ。そして9月24日に「継続賞」を受診した滋賀工場とともに、埼玉工場の「優秀賞」受賞が決定したのである。深谷工場はもともとTPMとISO14001、ISO9001とを融合させる方針をとっていたので、両国際規格の認証取得をめざして同年10月からただちに活動を開始した。


地球にやさしい企業へ――ISO認証取得

 ダイニックは、トップポリシーにもとづき早くから環境保全に取り組んできた。1978年(昭和53)には、周辺の環境問題に配慮して京都工場を滋賀に移転し、環境重視のコンセプトにもとづいて新工場を建設した。また環境の分析・情報サービスの関連会社を設立、さらに廃棄物処理などの業務を行う会社の設立にも深く関わり、自社の環境保全を促進するだけでなく、地域や他企業の環境への対応もサポートしてきた。
 1994年(平成6)1月、社長の坂部三司は「環境に関する基本方針」を明らかにし、「人間尊重、環境との調和、省資源、再生資源利用、省エネルギー、次世代への豊かな環境の継承」などをその基本理念とした。
 工場発足時から環境問題と縁深い滋賀工場は、社長方針にもとづいて、さっそく同年3月から「環境対策5R作戦」(「REDUCE」「REUSE」「RETRIEVE  ENERGY」「RECYCLE」「REFINE」)を展開するなど、積極的に環境問題に取り組んできた。
「ISO14001」が国際規格として制定されたのは1996年(平成8)9月である。ISOとは国際標準化機構の略称で、1947年に設立された民間の機関、スイスのジュネーブに本部を置き、加盟国は124カ国である。
 工業製品・部品の寸法や形状などの規格標準化は、JIS(日本工業規格)で行われているが、ISOはその国際版である。規格件数は機械や包装、フィルム感度など約一万件を数えている。規格は種類や分野によって番号で分類されており、たとえば「9000番台」は品質管理関係の規格が集められている。
「14000番台」のISO14000シリーズは、工場や事業所での環境管埋・監査の規格を集めており、環境対策を積極的に行っていることを認定する国際規格である。ISO14000シリーズにある約20の規格のうち最も重要な規格がISO14001(環境マネジメントシステム=EMS)である。認許を受けた後も、毎年監査が入り、システムが有効に機能していない場合は是正を求められる。
 ISO14001は工場や事業所ごとに、省エネルギー、廃棄物対策、環境汚染物質対策について短期と中期の目標を設定する。それを実現するため組織や人員配置を再編するとともに、進捗状況を定期的に点検、計画全体も毎年見直しする。第3者の審査員が、システムがISO14001に適合しているかどうか、対象の工場や事業所を数日かけて入念にチェックしたうえで認証を出す。審査を行うのは、日本でのISOの取り扱いを任されている「日本適合性認定協会」から認定を受けた審査登録機関で、「日本環境認証機構」など19機関がある。
 滋賀工場ではすでにISO14001が国際規格としてスタートする半年前から、認証取得への取り組みを始めていた。1996年(平成8)1月に示された社長の「環境に関する基本方針」を受けて、同年4月に、工場長が自ら早くも認証取得宣言を行っているのである。


業界で初めてISO14001の認証を取得

 滋賀工場の活動の狙いは「地球保護と地域社会にやさしい工場作り」であり、言葉を換えていえば、「環境保護と省資源・省エネルギーによるコスト低減」である。活動の目標は「環境パフォーマンスにすぐれた工場」の実現であった。
 1997年(平成9)8月に「ISO14001」認証を取得する計画を立て、さっそく組織体制の整備、内部監査員や特定作業者の教育・訓練、システム構築・運用などに取り組んだ。活動は工場長を頂点にして12ブロックに分けて展開したが、そのなかにはダイニックだけでなく、桂工業、ニックフレート、ダイニック・ファクトリーサービスも含まれていた。
 当初はあくまでEMS(ISO14001)だけを対象にしていたが、活動が具体化するにつれて「ISM」(1nterior Safety Materia)、さらには「ISO9001」の認証取得にも取り組むことになった。
 ISMとは壁紙製品の品質・安全規格(壁装材料協会が統括)であり、「ISM9001」は品質管理、品質保証の国際規格である。
 滋賀工場は壁紙の生産工場だから「ISM」の認証取得は不可欠である。だが、それには「ISO9001」に準拠した品質管理、品質保証の裏付けが必要だった。「ISM」の受審条件には「ISM9001」の取得があげられている。。さらにISMは環境への配慮や製品のライフサイクルの観点などからEMSとも密接な関係をもっている。そういう背景から、3つの規格に同時にチャレンジすることになったのである。審査機関についてほ、ISO9001とISO14001の両方の審査ができること、国際的な実績なども考慮してDNV(デット・ノルスケ・べリタス)に決定した。
 業界ナンバーワン企業を宣した工場長の「品質方針」、環境保護、省資源、地域との調和をかかげた「環境方針」にもとづいて、最終的に9項目の「環境目的」、30項目の「環境目標」を採択した。環境目的には「水の有効利用と浄化」「省エネルギー活動の推進」「廃棄物の再利用」「リサイクル」「廃棄物の総量減少」「工場の緑化推進」などがあるが、「廃棄物の対生産量比の総量を2001年度中に30%減少させる」「エネルギー原単位を10%削減する」ことを目標にかかげるなど、きびしい内容がもりこまれていた。
 ISO9001とISO14001は共通する面があるものの、ほぼ同時期に3つの審査を受けることになった各職場の作業負荷は相当なものであった。とくにEMSに関しては理解に時間がかかり、最初は従業員にとまどいも見受けられたが、環境側面の調査、各職場での環境改善プログラムの作成などを通じて、着実に認識が高まっていった。
 ISO14001については、1997年(平成9)2月に予備審査を受けたが、数多くの問題点を指摘され、システムの見直しに全力をあげた。その結果、同年8月5日から7日までの3日間の本審査(初回監査)ではもてる力を十分に発揮することができた。予備審査でいちばん指摘事項が多かった技術部門が、審査員から最高の評価を受けるほど、各部門とも改善の跡が顕著であった。
 実際に取り組んでみると、3つの規格は相互に関連性があることが分かり、同時に取り組むことによるメリットも少なくなかった。ISO9001と14001のシステム構築では、文書管理など共通する作業の効率化を図ることができ、またISO9001の認証取得により、ISMへの対応もかなりスムーズに進んだ。
「ISO9001」「ISM」の審査も並行して進み、「ISO9001」は6月23-25日、「ISM」は9月11日に行われ、いずれも認証を取得することができた。「ISO14001」については業界初、「ISM」は2番目の取得であった。
「ISO14001」については、滋賀工場内にあるグループ会社の桂工業、ニックフレート、ダイニック・ファクトリーサービスも同時に認証を取得した。


同時に3つの認証を取得

 埼玉工場は1998年(平成10)2月18日にTPM活動の特別指導を受け、同年8月に「優秀賞」を受審することになったが、同時に「ISO9001」「ISO14001」の認証取得の計画も明らかにした。「ISO9001」については10月、「ISO14001」については12月に監査を受け、同時に3つ認証取得をめざすことに決めたのである。
 TPMのロス削減、ISO14001の廃棄物削減、ISO9001の品質向上を同じベクトルでとらえ、相乗効果を狙ったのである。ISOやTPMに積極的に取り組む背景には、旧東京工場と旧深谷工場が合体して誕生した埼玉工場を本当の意味で融合させようとするという狙いもこめられていた。両工場は生産品目だけでなく、風土や管理方式にも微妙な違いがあった。新しい工場としてシステムや活動の統一化を進めていくには、何か共有できる新しい基準を必要とした。そこでISO規格にもとづくシステム構築を通じて、工場一体化を図ろうとしたのである。
 埼玉工場のISO活動は、先に認証を取得した滋賀工場のケースに倣って進められ、活動は予想以上にスムーズだったが、細部ではいくつか異なる点もあった。認証範囲が滋賀工場よりもひろく、設備・工程数も埼玉工場のほうがはるかに多かった。法規制なども埼玉独自のものがかなりあった。そこで工場長を中心に13ブロックに分け、関連会社の大和紙工、ニックフレート、ダイニック・ファクトリーサービスも含め、活動の周知徹底を図った。
「環境目的」は12項目、「環境目標」は35項目にのぼったが、産業廃棄物の中間処理業の認可を受けた埼玉工場ならではの内容になっている。廃棄物と水に焦点を当て、水の有効利用、浄化、省エネルギー活動、廃棄物のリユース、リサイクル、廃棄物の総量減少、工場の緑化などをテーマに採りあげたが、具体的な作業や手法には埼玉工場の特色が活かされていた。
「ISO9001」については1998年(平成10)10月27〜30日、「ISO14001」については同年12月16〜18日、相次いで初回監査を受け、目標どおりにほぼ同時に「TPM優秀賞」「ISO9001」「ISO14001」の3つの認証取得に成功した。環境に関する国際基準である「ISO14001」については、同じ敷地内にあるグループ会社の大和紙工、ニックフレート、ダイニック・ファクトリーサービスも同時に認証を取得した。


ISOとTPMは車の両輪

 滋賀工場、埼玉工場ともに共通していえるのは、TPM活動をベースにしてISO活動の対応を図ってきたことである。TPMは全員参加によって生産システムの効率化を進める活動であり、環境保全と関連する部分が多くある。
 ISOが求めるシステムとTPMにはいくつかの共通点がある。そのひとつが活動の継続性である。ISO14001では継続的なシステム改善と環境パフォーマンスの向上が求められるが、TPMでも継続した活動による改善が重要な要素になっている。
 未然防止や事前対応という面でも両者の考えかたは共通している。ISO14001は組織的な括動や製品・サービスが環境に影響をもたらす原因や要素に注目し、これを管理することにより環境負荷の低減を図るという考え万に立っている。TPMでも、設備や加工条件を管理することによって、生産劾率や品質を改善してゆくという姿勢を重視している。
 TPM活動が職場の隅々まで浸透していたことがEMS構築、ISO規格の認証取得にあたって大きく役立ったといえる。審査でも「TPM活動に取り組んでいるだけあって、改善していく力が定着している」と高い評価を受けた。
 TPMは積極的に改善を図るという側面では大きな効果をもたらした。もともと企業内の活動を対象としているからである。一方、システムや組織体制の整備は、いわば埒外にある。ところがEMSは組織内だけでなく、外部への影響も視野に入れている。さらにシステムが規格に適合したかたちで適正に運用されているかどうかという点にも目配りしている。
 ISOとTPMをいわば車の両輪のように機能させ、それぞれの特性を活かしながら、活動をさらに充実させてゆくところに、ダイニックの管理活動の特徴があのである。

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